初恋の向こう側
「ねぇ梓真、ずっとあたしのこと、ずらしてたでしょ?」
「俺がヒロを、ずらした? まさか……。
そんなの気のせいだろ」
動揺が増していた。
「えー。
だって、朝だって家を出る時間早くしたでしょ?」
ベッドの上でヒロは、携帯を頭の上に放り投げてはキャッチする……そんなことを繰り返していて。
「ヒロだって、俺に対する態度が素っ気ない時あったじゃん?」
言い返すと「そお?」 と惚けられた。
「そうだよ。修学旅行の頃とか。
その原因ってさ、その……オサが送り間違えたメールのせいだよな?」
俺の発言に、一瞬鎮まる部屋の中。
その空間にヒロの薄い笑い声が浮いて
「あーあれね。そんなこともあったね」
とやけに素っ気なく返された。
そして再び携帯を放り投げ遊びだす。
「あの時ってさ、ヒロのことをすっぽかした俺が何をしてたのかを知って怒ったんだろ?」
胸の中がドキドキと騒ぎ、ちょっと苦しさを覚えた。
「確かに、約束を破って嘘までついた梓真に腹は立ったよ。
でもね、梓真が誰と何処で何をしてたかなんて、そんな事にまで口をだす権利はないもん。ただの幼なじみのあたしに」
動くたびに柔らかそうな髪が揺れ、その大人びた横顔は知らない女のように眼に映り。
“ただの幼なじみ”
その言葉にさっきより強く苦しさを感じたんだ。