初恋の向こう側
「なら、今度なんかあった時は俺に言えば?」
無意識にそんな言葉が口から出ていた。
だけどヒロは、ヒラヒラと手を顔の横で振り笑いながら返した。
「何言ってんの? そうはいかないでしょ? 梓真には彼女がいるんだし」
「そんなの関係ないよ」
「関係なくないよ。
だから、こうやって部屋に来るのももうやめた方が ─」
「そんな必要ないだろっ」
一瞬静まった部屋の中。
しばらくして、苦笑しながらヒロが言った。
「どうしたの梓真……何か変」
どうもしねーよ。
どうもしないんだけど……。
「……彼氏じゃなくても好きなのか?」
「え」
「あの大学生のことだよ。
前に成沢が言ってたヒロには好きな奴がいるって。あれって、あの大学生のことじゃ…」
「何にもわかってないくせに勝手なこと言わないで!」
声を荒げたのは今度はヒロだった。
睨みつけられて胸のあたりが苦しくて、心臓を丸ごと握り潰されたみたいに強烈に痛くて ──
「帰る」 とベッドを降りたヒロの、その細い肩に思わず手が伸びた。
「待てよっ」
「離して!」
呼び止めた俺を振り切って、逃げるようにヒロが出ていった。