初恋の向こう側
偽りの恋
季節は春。
四月に入って学校も始まり、俺達は三年になった。
職員室。
髭剃り痕が目立つ顎をさすりながら、担任の教師が言った。
「それで佐伯、第一志望はどこにするんだ?」
先週、来年の受験に向けて、志望校の名前を記入する紙が配られた。
提出日は昨日。
白紙のままで出した、俺の用紙。
「それがさ、まだ決まってないんだよね」
うなだれながら答えると担任は言った。
「まだ四月だし、焦れ!とは言わん。でも一応、第二志望までは決めておけ。
佐伯には将来の夢とか何か進みたい道はないのか?」
無言のまま首を傾げると溜め息を吐かれた。
「新学期に入ってからなんだか覇気がないっていうか、お前らしくないぞ?
佐伯は成績も悪くないんだし、もう一度考えて金曜までに提出してくれ」
「…はい」
進みたい道、か……。
教室へ戻るため廊下を歩きながら、交互に浮かべたのは二つの顔。
進みたい道、進むべき道、
そして逸れてしまった、道 ──
浮かんだのは、ヒロと千尋の顔だった。
俺は何がしたくて、これからどうしようとしてるんだろう?
……なんて。
救いようのないバカな自分に投げかけた愚かな疑問は、ただ宙に浮かぶだけだった。