初恋の向こう側
「映画を観に来たんだけど満員で入れなくてさ」
『なにか言いなさいよ!』という愛莉の無言の圧力に押され口を開くと、千尋が続けた。
「そうなんです。とっても楽しみにしてたのに……。
でも佐伯君は、最初から乗り気じゃなかったよね?」
「えっ。別にそんなことないけど…」
そこへオサが入ってきた。
「なんて映画?」
千尋が映画のタイトルを答えるとオサが言った。
「それなら昨日観て来たよ。なあ愛莉?」
「ホントですかっ? いいなぁーわたしも観たかったのになぁー」
心底うらやまし気に言いながら千尋は、俺の顔を見上げた。
観ることができなかったのは満員だったからなのに、なんだか俺が悪いみたいに思えてくる。
その時「偽りの恋」と、ポツリと呟くように言ったのは愛莉だ。
「それって、サブタイトルですよね?」
千尋が訊き返すと、頬杖をつきながら愛莉が答えた。
「初恋の相手をずっと想い続けているのに、素直になれない二人は互いに違う人と付き合ったりして ”偽りの恋” を重ねるの。
好きなのに、まわり道ばかりして……」