初恋の向こう側

「部活も、大会控えてるから大変だよな。県大会とかそれより上へ行くとまだまだ引退できないんだろ?」


前を向いたまま尋ねる。


「そうだね。
でも今年の夏は別の計画があってね、夏休み前に引退するつもりなの」

「別の計画?」


訊き返し隣を見た。

間近に見る、ヒロの横顔……瞬きをしたその仕草に、ゆっくりとしばたいた長い睫毛に見惚れてしまった。


「でもまだ決めかねていたから、梓真に相談しようと思ってたの」


そう言って顔を傾けた、その柔らかそうな唇に触れたくなる。


「俺に相談?」

「うん。あのね夏休みにあたし、」


ヒロが何か言いかけた時だった。


「佐伯くーん!」


雨を跳ねる車の音に混ざって声がして、二人同時に振り向いた。

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