初恋の向こう側
分厚く重いドアを押し開けて中を見渡した俺は、暫しその場に立ち尽くした。
「なんだこれ…」
バンドのライブなら観に行ったことはあるけど。
足の爪先を踏み入れる事を躊躇うくらい、そこは異質な空間だった。
荘厳、つーのかな?
音楽ホールなのだから天井が高いのは当たり前にしても、天井からぶら下がってるライトや壁の彫刻は豪華すぎるし。
なんつーか神聖な雰囲気すらある。
おまけに段々になってる客席に四方を囲まれてるステージ。
多分クラシックのための設計なのだろうけど、あのどまん中でピアノを弾くなんて、緊張しすぎて生きた心地がしないだろうな……。
なんて事を考えた。
千尋が郵便で送ってくれたチケットを手に席を探す。
高校生が出場するコンクールだっていうのに指定席だなんて、どんだけレベルが高いんだろうか?
しかも、いわゆる“正装”って感じの服装の奴等ばかりで場違いな気もしてきた。