初恋の向こう側
照明の落ちた会場にアナウンスが流れる。
「……ブロック代表、私立城浜学園高校三年、安西 千尋さん。
曲は、フランツ・リスト作曲『ラ・カンパネラ』です」
シーンと静まった会場内にポロポロとピアノの音が流れだす。
鍵盤の上を踊るように動く千尋の指先。
まるで機械仕掛けのようだ。
赤いドレスを着てライトを浴びた千尋は、とても堂々としていて、いつもの子供っぽさを全く感じさせない。
美しい音に自然と聴き入る。
次第に激しさを増す旋律。
オルゴールの櫛歯が次々と上下するように、千尋の指がすごい早さで動く。
曲のあまりのスピード感に千尋の指がもつれてしまわないかとハラハラしていて。
気が付けば俺は、どうか失敗しませんようにって祈りながら見守っていたんだ。