初恋の向こう側
17時10分発、バンクーバー行き。
家を飛びだしたのは15時数分前だった。
飛行機の時間を確認した俺は階段を駆け上がり自分の部屋へ行き、机の引き出しの奥から三枚の諭吉君を取りだした。
財布の中に入っていたのは八千円とちょっと。
「これだけあればなんとかなるか」
まだ手つかずだったバイト代を財布の中へ押し込んだ。
近くのスーパーにあるタクシー乗り場へ向かったのが二時間前。
その場へチャリを乗り捨て後部座席へ乗り込む。
息を切らしながら 「成田まで」 と伝えた俺に、振り向いた運ちゃんが言った。
「えっ? ここからなら一時間半はかかるし、それより兄ちゃん金は大丈夫なのかい? 三万は超えるけど」
三万って額に全く怯まなかったわけじゃない。
でも迷ってる場合じゃなかった。時間がないんだ。
なんで俺になんにも言わずに、しかも携帯なんか忘れやがって。
これじゃ文句も言えねーだろ!
顔が見れないばかりか声も聞けないなんて、そんなん耐えられるかよ。
そんな長い間、さ ──