初恋の向こう側
『山中湖に行こうぜ!』
そんな電話がオサからあったのは二日前。
話を聞けば、湖畔のキャンプ施設の中に泊まりの予約もすでに入れてあるという。
決して乗り気だったわけじゃないけど別に他に予定があるわけじゃないし、予約までしてるんならって来ることにしたんだけどさ。
まさか、予想外のメンバーも参加するなんて……誰が思うよ?
それは朝のこと。
待ち合わせ場所へ行こうと玄関を出た時、ほぼ同時に隣の家のドアが開いた。
そこから出てきたのは、まだカナダにいるとばかり思ってたヒロで。
Tシャツにデニムのショートパンツというラフな格好だけど、手には小さめのパンパンに詰まったバッグを持っていた。
ちょっとそこまで……って感じではない。ひょっとして小旅行?くらいの雰囲気。
この時すでに嫌な予感はしてたんだけど、それより久しぶりに顔が見れて、色んな感情が溢れだしそうになったんだ。
何も告げずにカナダなんかに行ったヒロに。
携帯なんて重要アイテムを忘れて留学に旅立ったヒロに。
何故か、あのイケメンで元家庭教師で神大の学生と一緒に海外へ行ってしまったヒロに。
タクシーを飛ばして追いかけようとした事も知らないヒロに。
千尋と別れてから顔を見ることもできず休みの間、俺がどんだけ腑抜けになってたかなんて知る由もないヒロに。
すべてをぶつけたかった。