初恋の向こう側
そして翌朝。
親切なスタッフの人の計らいで搬送先の病院へ向かった俺達だったが、ICUの中にいる彼とは面会できず、会話もないまま帰路に着いたのは、空が夕焼けに染まりかけた頃だった。
誰もいない家にヒロを一人で帰すなんてできなくて、生気を失ったように落ちた肩を抱きながら自宅の玄関ドアを開ける。
俺達の物音を聞きつけて出てきた母さんは、昨日のオサと愛莉のような血相をしていた。
「何度も携帯へかけたのに!」
母さんの第一声はそんな一言だった。
「なんかあったの?」
棒読み状態で尋ねた俺。
怒りを買うかと思ったが、そんなこともなく母さんは次の言葉を口にした。
「茉紘ちゃんのお母さんが ─」