初恋の向こう側


寂しさを漂わす秋も過ぎ、そろそろ冬支度が始まろうとしている季節。


「やっぱ、この部屋はいつ来ても落ちつくなぁ~」


と俺のベッドでゴロゴロするオサ。
久しぶりの俺んちへの訪問。

近頃の俺達はこの時期になればさすがに受験一色で、『かったりぃー』とか『だりぃ』なんて言いながら、本当に羽目を外すなんて真似はもうしない。

ピリピリとした緊張感も僅かだが、漂うようになっていた。


「アズマが椎名と別行動なのって珍しいよな?」

「今日はヒロ、逢坂さんの病院に行ってるんだ」

「一人で行かせていいのかよ?」

「別にいいだろ見舞いに行くくらい」


そう答えて俺は、なんとなしに目を伏せた。


「だって、椎名は大丈夫でも向こうは気があるんじゃねーの?」

「さあ今はどうなのかな。
前に聞いた時は100%じゃないって言ってたし。それも、あの事故の前の話だったから」


「ふーん」と言いながら少し考えこむオサ。

そして少しの間を置いてから

「でも椎名は、まだ知らないんだろ?」

と言った。

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