初恋の向こう側

「そうだ、俺あれが食べたい! ヒロの玉子焼き」

「玉子焼き!? クリスマスだよー」

「だってさ食いたいんだもん。前に作ってくれたことあったじゃん。だし巻きってやつ。
あの味、俺すっげー好き。ウチの母さんの玉子焼きって甘すぎておかずになんないんだよ」

「そお? あたしは逆にオバさんの味好きだけど。おふくろの味って感じで。
あたしの家にはほら、そういうのなかったし」


なんでもない風に言ったヒロだけど、俺はちょっとだけ胸が締めつけられた。

その時「あら」と後ろから声をかけられ、同時に振り向いた俺達。


「前に温人のお見舞いに来てくれたわよね?」


と初めにヒロの顔を見たその人は、その後で俺と目を合わせて言った。


「あなたも確か以前に…」

「はい病院で。どうもこんにちは」


頭を下げると逢坂さんのお母さんは、柔らかく微笑んだ。

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