初恋の向こう側


ヒロの家に入り、台所へ向かう。

買い物袋を流し台の上に置いた俺は、リビングに立ったままでいるヒロを振り返り声をかけた。


「とりあえず冷蔵庫にしまうよ」


返事はない。
帰りのバスの中でもそうだった。

逢坂さんと別れてから一言も喋ろうとしないヒロ。

こんな事ならお茶の誘いなんて受けなきゃよかった。

……単純なる俺のバカな後悔。


袋から食材を取りだす。

セロリ、トマト、パプリカ……バター、タイム、生クリームに玉子。

それを一つづつ冷蔵庫に納めながら、迷っていた。

この作業が終わったらヒロにかける言葉を。

なんにもなかったように笑顔で話したらいいか。それとも……ちゃんと向き合うべきか。

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