初恋の向こう側

だけど先に動いたのはヒロで。


「梓真は知ってたの?」


十個入りの玉子のパッケージを開け、最後の一個を手にとった俺に訊いてきた。


「温人君の足のこと、知ってたの?」


嘘はつきたくない。

だから何も返せなかった。でもそれが肯定したことになる。


「愛莉やオサムは?」


綺麗に並んだ玉子を見つめたまま、冷蔵庫の扉を閉めた。


「知ってるよ」

「……あたしだけ? 知らなかったのはあたしだけなの?」


ゆっくりと頷いて振り返ると、すぐ後ろにヒロが立っていた。



事故のあった日。

大型車に前後を挟まれたせいで救助の際、潰れた車体に挟まった下半身を抜きとるのが大変だったらしい。

やむを得ずその場で右足の一部を切断し、その後で手術によって逢坂さんは腿より下を失った。

ヒロには内緒にしておこうと言ったのは彼自身だ。

ヒロの母親の死があったから、尚更だったのかもしれない。

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