初恋の向こう側

「そうだ! これこれ見てくれよ」


とオサが鞄に手を突っ込っこんで、ごそごそと探りだす。

そして「ジャーン!」と取り出したのは、温泉旅館のパンフレット。


「これって卒業旅行の?」

「うん。昨日予約入れといたから」


パラパラとページを捲りながら愛莉が言った。


「前に理が話してたとこと違うよ。それに高そうだけど大丈夫?」

「それがウチの父ちゃんの会社の人の実家とかで、安く泊まれるらしいんだ」


湯けむり漂う大浴場に、海が眺められる露天風呂。それと豪華な食事。

宣伝用に撮影された写真だから実際より良く見えるのかもしれないけど、でも受験の疲れを癒し卒業祝いに羽目を外すには、充分過ぎる場所のように見えた。


「いいね~」

「だろー?」

「早く行きた~い」

「愛莉ぃ、露天風呂は混浴もあるよー?」

「バーカ!」


ってアホな会話に苦笑しながら俺は、何となく隣に視線を向けた。

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