初恋の向こう側

「どうした?」


黙ってパンフレットを眺めていたヒロ。

オサ達のやり取りを笑うわけでもなく、淡々とページを次々に捲り、そして閉じた。


「ヒロ?」

「え? うん……」


呟くように答えてから真顔になる。
そして唐突に切りだした。


「ねぇ、皆んなに聞いてほしい事があるの」


その声にオサと愛莉も顔を向ける。


俺はその時、ヒロが何を言おうとしてるかなんてまったくわからなかった。
微塵の検討だってついてなかった。

だって、一言もそんな話聞かされてなかったんだから。


想像する事も見当をつけることも出来る筈なんてなかった。

そんな素振りも見せた事はなかったんだから。



「あたし、進学はしないよ」


その一言に俺達は目を丸くした。


「…どういうこと?」


愛莉が尋ねる。


「せっかく受かったんだけど行かない事に決めたの」

「行かないって、それでどうすんだよ?」


真顔のオサにヒロは笑顔で答えた。


「あたしね、留学するの」

< 363 / 380 >

この作品をシェア

pagetop