初恋の向こう側

「本当は一番に梓真に話するべきだったんだよね。

でもあたし、そうしたら決心が鈍っちゃうから……そんな何年も離れるなんて耐えられないって ――」

「ヒロ…」


立ち上がり、床に膝をついて向かい合う。

椅子に座ったままのヒロへ手を伸ばすと、崩れるように胸の中へ落ちてきた。


そのままそっと両腕で包みこむ。

髪を撫でると、いつものシャンプーの香りがした。


「いつからそんな泣き虫になったんだよ?」


俺の胸に顔を埋めたまま鼻を啜るヒロ。

その涙で、鎖骨の辺りが湿っているのを感じていた。


「『あんたと違って泣き虫じゃないの』って言ってたじゃん?」


もう少ししたら送りださなきゃいけないんだ。

だから、湿っぽいまんまじゃいたくない。

そんな空気を引きずっていたら、マジで「行くな」って止めてしまかもしれない。

だから俺は、涙で濡れたヒロの顔を笑いながら覗きこんだ。


「こんな時に笑わないでよ?

あたしだって……あたしにだって、たまには強がるのも疲れる時があるんだから」


と言ってヒロは、泣き顔のまま唇を尖らせた。

< 373 / 380 >

この作品をシェア

pagetop