初恋の向こう側
「本当は一番に梓真に話するべきだったんだよね。
でもあたし、そうしたら決心が鈍っちゃうから……そんな何年も離れるなんて耐えられないって ――」
「ヒロ…」
立ち上がり、床に膝をついて向かい合う。
椅子に座ったままのヒロへ手を伸ばすと、崩れるように胸の中へ落ちてきた。
そのままそっと両腕で包みこむ。
髪を撫でると、いつものシャンプーの香りがした。
「いつからそんな泣き虫になったんだよ?」
俺の胸に顔を埋めたまま鼻を啜るヒロ。
その涙で、鎖骨の辺りが湿っているのを感じていた。
「『あんたと違って泣き虫じゃないの』って言ってたじゃん?」
もう少ししたら送りださなきゃいけないんだ。
だから、湿っぽいまんまじゃいたくない。
そんな空気を引きずっていたら、マジで「行くな」って止めてしまかもしれない。
だから俺は、涙で濡れたヒロの顔を笑いながら覗きこんだ。
「こんな時に笑わないでよ?
あたしだって……あたしにだって、たまには強がるのも疲れる時があるんだから」
と言ってヒロは、泣き顔のまま唇を尖らせた。