初恋の向こう側
「なぁ、あれって梓真の幼なじみの椎名じゃねーの?」
「ん?」
オサの指がさす方を見た俺の目に映ったのは、バッターボックスで構える姿。
ヒロは、初球にいきなり手を出した。
カッキーンッ !!
三遊間を抜けた打球は、レフトが追いつけないほどの勢いで飛んでいく。
その間に累を回るヒロの、白く形の良い脚が駆けて行った。
「スッゲーなぁー」
隣でオサが口を半開きにしている。
相手チームの三年の女子からはブーイングが起こり、逆に男子からは口笛や歓声が上がっていた。
見事にホームインを決めたヒロが、俺の前を通り過ぎる。
あの夜からヒロとは、一言も口を聞いていない。
「田所!!」
突然名前を呼ばれ振り返ったオサが、ペコペコと頭を下げた。
三年の男子生徒が三人、その真ん中の男がオサに尋ねた。
「なぁ~、あの娘、知ってる?」