初恋の向こう側
家番と携帯の番号まで書いたところで、チリンと出入り口の方で鈴の音がした。
間もなく入ってきたのは、オタクの見本絵図のような男。
そのオタクは、つかつかと俺の前まで来て立ち止まった。
思わず仰け反ると、そいつが言った。
「何故キミは、そこに座っているんだい?」
妙に高いトイボイス。
たぶん俺に向かって言ってるんだろうけど。でもコイツ、一体どこ見て話してんだ?
白目をむきそうなくらい、目ん玉を上に上げてキョロキョロ動かしている。
って、かなり恐っ!
黙ったままでいると、また繰り返した。やっぱり目線はこっちにない。
もしかして、コイツもここでバイトしちゃってる?
その疑問をそのままぶつけてみた。
「あの、もしかしてここの人ですか?」
すると男は、ずり落ち気味の眼鏡を中指で上げてから、コクコクと首を縦に振った。