初恋の向こう側
ヒロの母親は、精神を患っていた。
初めてここへ越してきた時には既に病んでいたらしく、入退院を繰り返していた。
幼かった俺は、体の病気だと思っていたんだ。
一時退院して家に戻っている時でもオバさんの気配はなく、隣の家の玄関から出てくるのはオジさんかヒロだけ。
窓越しにもその姿を見かけることはなかった。
「梓真、あの時のこと覚えてる?」
不意に母さんが言った。
「覚えてるよ」
“あの時”とは6年の冬……クリスマス目前の、あの日のことだ。
その日は、朝から雨が降っていた。