初恋の向こう側
「梓真! もう毎朝毎朝手が掛かるんだから。いい加減ちゃんと起きてよねーっ?」
これ、いつものパターン。
階段を降りて食堂に顔を出した俺を出迎えるのは、“おはよう”ではなく母さんの小言。
まっ 仕方ないけど。
そして続く。
「自分で起きてきたのって入学式だけじゃないの?」
言いながら台所で忙しそうに動いてる。いつもの風景。
先に食卓に着き、聞き耳を立てていた真央がクスッと笑った。
だからすかさず、その頭めがけて右手首のスナップを効かせてやった。
「もうやめてよ? 時間かかったんだからぁ~!」
そう言って、髪型を気にする小生意気な妹。
ふんっ 急に色気づきやがって。
そして、そんな周囲の騒々しさが耳に入っていないかの如く、新聞に目を落としたままトーストを齧る父さん。
これも、いつもの風景。