初恋の向こう側

突然、「あれ?」と言って、レジの向こう側に屈みこんだ中森さん。

机と床の隙間から拾い出した物を見せた。


「何だこれ?」


薄っぺらなに布地の迷彩模様……どうやらパスケースらしい。

相当使い込んでいるらしく、生地が擦り切れおまけに酷く汚れている。

おもむろに開かれた中を見た瞬間、俺は思わず声を上げた。


「うっわぁーーっ!!!」


その雄叫びにビビった中森さんが、パスケースを放り投げ叫んだ。


「なっ なにーーっ !?」


一瞬にして静まる店内。


「……」

「……」


無言のまま、顔を見合わせる。


「……中、見なかったんですか?」

「見てないよぉー。佐伯君の声に驚いちゃって」


ひきつりながら、もう一度拾い上げて中を見た中森さんが絶句した。

パスケースを開くと、片側には運転免許証、反対側には何枚ものカードが押し込められていて。

俺が悲鳴を上げたのは、その免許証の写真の顔である。

それは店の常連の小暮さん。

実物も凄いが、写真の小暮さんも不気味極まりなかった。


< 75 / 380 >

この作品をシェア

pagetop