初恋の向こう側
「哉子さん……」
右に真っ直ぐ進んだ先の小路の入り口に、哉子さんが立っていた。
近くまで行っても気づく様子のない彼女。
待ち合わせでもしているのかな?
辺りを気にしながら立っている。
「お姉さん! 一緒お茶でもどお?」
俺の声に驚いて振り向いたその顔が、すぐに安心したように微笑んだ。
「なんだ、佐伯君かぁ」
「こんなとこにいたら、連れこまれますよ?」
キョトンとする彼女に、俺は人差し指を立てて右を指した。
その先の小路はラブホ街である。
「……あ。そっかぁ」
って、この人ってばまた……。
今時、中学生でもそんな反応しないって。
「まったく危ないなー。待ち合わせですか?」
尋ねると、ちょっと目をキョロキョロってさせた彼女は、うんと小さく頷いた。
なぁんだ、残念。
否定したら、本当にお茶でも誘おうかと思ったのに。
ちょっと話をした後、仕方ないので俺は退散した。