初恋の向こう側
路地裏を出て、とぼとぼと歩きだす。
途中の本屋に寄って立ち読みをしてから、アーケードの中にオープンした洋服屋でTシャツを物色し、空腹を感じてラーメン屋に行くことを思いつく。
でも、店を出て再び歩きだして間もなくに後ろから呼び止められた。
「佐伯君?」
聞き覚えありありのその声に、すぐさま振り向く。
「どうしたんですか?」
そこには、いつもよりおしゃれをした哉子さんが立っていた。
「後ろ姿を見て、すぐに佐伯君だってわかったよ。いま帰るところ?」
「はい。
哉子さん、急用ができたって中森さんに聞いたんですけど?」
「そうだったんだけどね……それが、その用もなくなっちゃったの。
せっかく交替してもらったのに、中森君には悪いことしたなって思って」
「それだったら心配しなくて大丈夫ですよ! 中森さんなんて年中暇ですから!」
ばつが悪そうな顔してた哉子さんが、フフって笑って。
下がりっぱなしだった俺のテンションが上昇し始めた。