初恋の向こう側
アパートの階段を駆けあがりドアの前に立った彼女が、片手で口を抑えて叫んだ。
「鍵ーっ !!」
「へ?」
「早く! バッグの中だってば!」
そんなこと言ったって……とは思ったが、こんな場所で吐かれても困る。
夏らしいボーダー柄の小さめなバッグの中を探ると、あった。
急いで鍵穴に差し込みドアを開けると、俺を押しのけ部屋の中へ傾れ込むように入った哉子さんが、玄関へ入ってすぐのトイレと思われる部屋の中へ消えた。
ちょっと呆然としながら、正面からの月明かりを頼りに照明のスイッチを探す。
「……あった」
明かりが点ることによって露呈した部屋の中は、想像以上に狭かった。