溺愛女神様―青空の瞳―

不思議な気分だ

昔から聞かされた伝説の女神が隣に居るというものは

“居る”と言われ続けた女神の存在。

しかし、今の世代の中に女神を見た者はいない。

それを知った幼い自分は信じることをやめた――――もし“居る”のなら自分を救ってくれるはず、という身勝手な願をかけて

そして―――――――





「ヨル?」

「――!」

レイの声ではっとする

ヨルの脳裏に浮かんだのは忘れたはずの幼い頃の自分

それをはらうように頭を一つ振ると今度は確実に意識をこちらに戻す

「どうしちゃったの?何か変だよ……?」

「何もない」

「うそ」

なかなか引き下がらないレイに若干の憤りを感じながらも言葉を飲み込む

「誰にだって話したくないことくらいあるだろ」

冷たい言い方になったかもしれない――少しの罪悪感に苛まれるが自分にとって“あの事”は忘れたい事実

強めに拒絶の線を引いておけば今後踏み入られることもないだろう

そう思いヨルは口を閉ざした


「……そうだね。触れられたくないことってあるよね。ごめんなさい」

頭を下げるレイにヨルは居心地の悪そうな表情を浮かべ“悪かった”と一言だけ告げた


会話も切れてしまった二人の耳に大きな罵声が届いた

何事かと二人は視線をそちらに向けた

目に飛び込んできたのは明らかに酒に酔っている中年の男がまだ幼い少女の胸倉を掴んでいる光景だった

「おいおい嬢ちゃんよぉ。ちゃんと前を見て歩きゃなダメだぜ〜?お前の持ってた飲みもんで俺の服が台なしじゃねぇかぁ…!」

「あ…う、ご、ごめんない」


少女は涙ながらに謝るが男は聞く耳を持たないといった風で胸倉を掴む手に更に力を込める


レイが足を踏み出す前に早く動いた影があった





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