溺愛女神様―青空の瞳―
現在よりほんの少し前―――
「行ってきまーす」
そう一言言って家を出るが、返ってくる返事はない
と言っても、別に両親が死んだなどの暗い話ではない
両親は仕事のため海外で暮らしているため、一人暮らしを余儀なくしている
当初は誰も居ない家というものが寂しかったが、それも一年以上経てば慣れてしまうもので…
今じゃ、自由を楽しみながら生きている始末
「げっ、今日は英語のテストがあるんだった…」
いつもの通学路の道を歩きながら、レイは今日行われる小テストにため息をついた
そんなとき、一匹の黒猫が視界の端に留まった
その猫は何をするわけもなく、こちらをじっと見つめている
なんだか不思議な猫だった――雰囲気もそうだが、何よりも紫の瞳が
その瞳は何故か、自分を呼んでいるようなそんな錯覚を起こさせた
「あっ…!?」
後、猫はレイが行く道の反対方向に走ってゆく
ただでさえ好奇心旺盛なレイは行かなくては、とばかりに迷わず進行方向を転換し、猫の後をついていった
どこぞの地域では黒猫は不吉の象徴だとか言われている――そんなことが頭の中に過ぎった
それが当たっていたのか、否か
猫を追いかけるレイに横から来るトラックがスピードを緩めることなく突っ込んできた
それに気づいたときには遅く、レイは反射的に目をきつく閉じ、衝撃を待った