妖恋華
「守護妖ごときが俺の前に立ちはだかる、か。そいつは元々摎に献上される“もの”だろう?」
「あくまで彼女は候補の一人。確定する前に手を出すのは契約違反だ」
「…………」
青が言い返すと戒斗は興味を失ったように踵を返した
それに続くように真紀も踵を返す。
危機を回避し、乙姫は安堵の息をついた
「帰りが遅いと思えば……。アイツにはもう近づくな」
ため息をつきながら一つ忠告すると、青も来た道を戻ろうとする
乙姫はとっさに青の袖の裾を掴んだ。
「…なんだ?」
「助けてくれてありがとう」
「別に…役目を果たしただけだ」
そっけなく返すと青は歩き出そうとする。
しかし、乙姫は手を離す気はなく青は引っ張られるように立ち止まる
まだ何かあるのか、そう言いたげに乙姫を顧みる
「私…青が本当に嫌がるなら名前は呼ばないようにする。でも、それじゃあダメだと思うの。」
「…は?お前、何言って――」
乙姫の意とすることが読みとれず、珍しく青は戸惑う
「私は味方になるから…一人じゃないから!虎太郎先輩もいるし!」
青は目を丸くさせ、そしてため息をつく
「……。何言ってんだ、お前。自分の身一つ守れないくせに偉そうにするな」
「…うっ」
まったくもってそうなんだが、もう少しやんわりと言ってほしい…――と乙姫は乾いた笑みを浮かべた
「……気持ちだけは受けとっておいてやる」
俯く乙姫に届いた照れを含んだような声。
ぱっと見上げると、少し微笑んだ青がいた
乙姫が見つめているのに気づいた青は、ばつが悪そうに視線を逸らし、“行くぞ”とぶっきらぼうにいい放つとすぐに踵を返した
「あ、待ってよ!」
足早に進む青の後ろ姿を駆け足で追いかける