妖恋華



周りを見渡しても同じ様な景色。
茶色の葉と少量の緑の葉が広がり、木が連なっていてこの森の外の様子はよく分からない。
そういうことからもここが深く広い森だということがよくわかる。

差し込む太陽の光が赤みを帯び三人を照らす。日が傾き始めていることに今、初めて気づいた。
家を出たのは午前8時半くらい。それが日が傾くという時間まで過ぎている…。




もしかしたら、一瞬だと感じた“神隠し”が長かったのか―――と考え、もう一つの気になることに思考を巡らせた。


ここが何処か、ということだ――。


乙姫は俯いていた顔を上げて、手を繋いでいる少年を見る。

そこで少年が学生服を着ていることに気づく。
青年も少年と同じ制服を着ている。

それはつまり、学校が存在しているということだ。

学校のように整った設備があるということは人が沢山いるということ――いくらでも連絡手段がある。

乙姫はその可能性に期待しながら彼らの後を歩いた。








乙姫は彼らに連れられ道なき道を歩く。会話は無く、非常に気まずい雰囲気が漂っている。


もともと沈黙が好きじゃない乙姫は、知りたくないが、やはり一番気になる“ここがどこなのか”を覚悟を決め、口を開いた。


「あの、ここは…?」


自分の手を引く虎太郎と名乗った金髪の少年に聞いてみる。

ちなみに“青ちゃん”と呼ばれた青年は二人のちょっと前を、早く森から出たいのか速歩きで歩いている。


「ここはね【神名火村(かんなびむら)】だよ」


【神名火村】…聞いたことの無い名前だ。
日本のどこら辺なのだろうか――


「帰れるよね…」


誰にも聞えないくらいの声で言葉にした。

実際、誰にも聞こえていないと思っていた。
しかし、その祈るような言葉を、手を引く少年も前を行く青年もしっかりと聞いていた。

聞いていた上で彼らは沈黙したのだった――。

その理由はこの先の【神薙神社】で明らかになる




< 16 / 103 >

この作品をシェア

pagetop