妖恋華
「この世には人の世…【現世(うつしよ)】と神や妖達の世【常世(とこよ)】という世界が存在している。太古の昔…その二つの世界は均衡を保っていた。けれど…ある時から徐々にその均衡は崩れていった――――
その元凶が【荒神(あらがみ)の降臨】
荒神は妖達を狂わせ、血と肉を求めるただの化け物にしてしまった。
そして妖達は人間を襲うようになり…沢山の人間が殺されてしまったわ―――。
それから二つの世界は均衡を崩し、荒神と妖は【現世】に干渉するようになった。
けれど、それでは人の世はいずれ壊れてしまう…。
それを避けるためにこの【神名火村】が存在しているの。
村の名前にあるようにここは【神名火(かんなび)】と呼ばれる常世と現世の端境(はざかい)…。いわば、常世と現世の往来を制限するための結界の役目を担っているの。」
知らない単語が多々出てきたが、この村がただの村ではないということだけは今の乙姫にも理解することができた。
「この村が現世と常世の均衡を保っているということ――。どうやって保っているのかあなたには分かるかしら…?」
華紅夜の突然の問いに当然のことながら首を横に振ることしかできなかった。
「さきほど荒神が降臨した…と言ったわね。この村にはその荒神の血を継ぐ【摎】という一族が村の頂点に座しているの。」
「…しばり……」
“摎”と聞いたとき胸のあたりがざわついた気がした。
乙姫はいつの間にか自分の手を握り締めていた。
手は白くなっており、それは自分で自分に驚くくらいだった。