妖恋華
「そう…。その【摎】に“あるもの”を捧げることで今は均衡を保っているわ…。その“あるもの”こそ、あなたに関係のあるものなの。」
華紅夜の言葉に疑問符を浮かべる乙姫に彼女は更に続ける。
「花嫁―――と私たちの間では言われているわ。」
「…!?」
花嫁――。
確かあの赤髪の男の人も言っていた。花嫁がどうのと――恐らく花嫁という言葉が指す意味は二人とも同じものだろう。
自分と一体どんな関係があるのか――乙姫は先程より、いくらか真剣に耳を傾けた。
「その花嫁の役割は代々神薙の一族が果たしているの。」
「……私に関係が、あるんですか…?」
華紅夜の遠回しな言い方からは今一つ真意を読み取ることが出来ず、はっきりとした言葉を求めて乙姫は口を開いた。
「……あなたには摎の花嫁になってもらいます。」
どくんと心臓が跳ねた、というより重くなったと言ったほうが正しいのか―――。
まだよく分からない花嫁の意味――。乙姫は反応できなかった。
俯く乙姫に追い打ちをかけるように華紅夜は今まで以上に残酷な言葉を紡ぐ。
「あなたは村から出ることが出来ないの。だから、花嫁になるしかないわ。」
村から出れない―――?
乙姫は下げていた顔を上げて華紅夜を見つめる。今の言葉が聞き間違いであって欲しいと期待を込めて。