妖恋華
それから静かな時間が過ぎ、夕食も食べ終えた。
「ごちそうさまでした。」
手をしっかりと合わせ挨拶する。一番最後に食べ終えたのは乙姫だった。
青や虎太郎の食器は既に重ねられており、乙姫が食べ終わるのを待つというかたちだった。
「ごめんなさい。食べるの遅くて…」
「別に気にしなくてもいいよ。ね?青ちゃん」
「…ああ」
同意を求めるように笑顔で話しかける虎太郎に対して、相変わらず素っ気ない態度の青年。
そんな彼らを見て思う――――虎太郎に対しても、いつもこうなのだろうかと。
食器を運び出す青年に乙姫も近くにあった重ねられた食器を持ち、ついていった。
台所は居間よりも寒く、静かだった。
かちゃりと食器を洗い場に置いたとき、青が口を開いた。
「お前は何もしなくていい」
「そういうわけには……」
いろんなことがありすぎて忘れていたが、森でも助けてもらい、夕食まで世話になったのだ。何もしないわけにはいかない――。
しかし青年は冷たい瞳のまま乙姫を見据える。
「俺はお前を【巫(かんなぎ)】と認めたわけじゃない。」
「…巫…?」
乙姫が聞き返すように呟くが青はこれ以上話すことはないとでも言うように後ろを向き皿を洗い出した。
青年の後ろ姿を見ながら、乙姫は新たに聞かされた単語を頭の中で反芻させたのだった――。