妖恋華
後ろに乙姫の存在を感じながら青は溜息を小さく吐いた。
一体いつまで此処にいるつもりなのか―――。
再び溜息を吐きそうになったとき、後ろから声を掛けられた。
「何か手伝うことある…ありますか?」
「…別にあんたにしてもらうことは無い。」
何故、言い直す必要があったのだろうか――と密かに首を傾げながらもしっかりと答えた。
言っことは事実だ。朝食のほとんどは既に出来ており、手伝いがいるほど忙しいわけでもない。
それにしても、相手がそんなことを言い出すのは意外だった。
普通ならば、あれだけ突き放せば距離をおくものだ。
青はいまだに話す話題を探している乙姫にちらりと視線を向ける。
彼女は変わった人間だ――。
乙姫は台所の入り口で立ったまま頭を悩ましていた。
魚の焼き具合を見ている目の前の男を盗み見る。
彼の背からは“近づくな”というような拒絶のオーラが出ているような気がする。
居間にでも居ればいいのだろうか―――。
しかし、お世話になったのに何もしないのはやはり気が引ける―――。
もともと働き者体質であることと、世話になったということで、乙姫はじっとして居られず、やはり何か手伝うことはないかと再び口を開こうとしたとき――。