妖恋華
首を傾げながら差し出されたものを覗き込む。
その形容には馴染みがあり、学生ならば自然と手にするであろうもの―――。
「生徒手帳……ですか…?」
臙脂色のカバーに金の字で『御伽学園』と記されたそれは高級感を持っていたが僅かに年季が感じられた。
しかしこれを出された意図が分からず疑問符を浮かべながら視線を手帳から華紅夜へと移す。
「あなたには此処に通ってもらいます。」
“此処”とはおそらく『御伽学園』だろう。しかし納得がいかないのはそんなところではない。
「通う……?」
そこで理解した。華紅夜は自分をこの村に留まらせて、それどころか、その“御伽学園”に通わせようとしているのだ。
「私は…自分の家に…帰ります。」
そうだ。自分は此処に留まることを了解したわけではない。
妖だとか花嫁がどうとかの話を信じてないわけではない。
実際、神隠しを起こすなど人が成せる技ではないし、最初に出会ったあの赤髪の男は明らかに異質だった。
「昨日話したように村の外に出ることは叶わないわ。」
「結界があるからですか?」
「ええ。」
昨日の話を思い出しながら口を開く。
「でもあなたには別の理由でもこの村に居てもらわなくてはいけない……。」
華紅夜はまっすぐに乙姫を見据える。
華紅夜が言っていることはおそらく――ある単語が思い浮かぶ。
「花嫁……」
乙姫が話の概要を理解していることに満足したのか華紅夜は薄い笑みを浮かべた。
それとは相反するように乙姫は、苦虫を噛みつぶしたような表情を浮かべた。
「そこまでわかっているのならあなたはこの村に居るしかないのがわかったでしょう…?」
改めて言われ乙姫は耐えられなくなったように華紅夜から視線を逸らした。