妖恋華
居間からは二人の声が響いてくる。ひとつはよく知る少年のもの。もうひとつは不運にもこの村に来てしまった少女のもの。
「乙姫ちゃんも御伽学園に通うんだ。」
「……うん。来週ぐらいから…かな…」
「そっか…。乙姫ちゃん、」
「あんたはそれでいいのか。」
気づけば、虎太郎の言葉を遮って、そんなことを口にしていた。そんな自分自身に驚きつつも、顔には出さず歩を進める。
虎太郎も乙姫も、青の登場にかはたまた言葉になのか、目を見開いている。
二人の視線を受け流しながら青も腰を下ろした。
机には既に朝食が並べられている。自分が華紅夜に朝食を持っていっている間にこの二人が運んだんだろう―――。
そう結論づけて箸を握る。それを見た二人もい“ただきます”と一言告げ箸を握る。
「青ちゃん、さっきのどういう意味?」
不思議そうに注がれる二つの視線に若干の居心地の悪さを感じながら青は口を開き“別に”と一言発したのみだった。
「ありがとう。」
しかし、何を読み取ったのか、向かいに座る青を見つめ乙姫は一言礼を伝えた。
何故礼を言われたのか分からない青は眉根を寄せて乙姫を見る。
だって、心配してくれたんでしょう?――と乙姫は青に笑顔を向ける。
それに青は答えを詰まらせた。
自分は心配などした覚えはない。ただ―――本当に此処でやっていく覚悟があるのか、ただそれを確認したかっただけだ。
青はそう自分に言い訳するように心の中で呟いた。