妖恋華
「織姫さん、入れて来ましたよ」
花瓶に水と花を入れて少女は病室に戻ってきた
その表情は明るく、何事もなかったようなものだった
いや…そう努めていた…
しかし――――――
「乙姫ちゃん、泣かないで…?」
花瓶をベッドの横にある机に置き“綺麗でしょう?”と問い掛けて返っきた言葉は予想もしていなかった言葉だった
「さっきのですか?あれは嬉し涙ですよ」
今自分はちゃんと笑えているだろうか―――
悟らていないだろうか――――
「違うわ…今…泣いてる…」
実際には少女の頬は濡れていない。
“泣いてませんよ”と笑ってごまかしても彼女の透き通った少女と同じ色の瞳は真っ直ぐに少女を捕らえている。
泣くなと自分に言い聞かせているのに意に反してまた目頭が熱くなるのが分かる
彼女が悪いわけじゃない。
分かってるはずなのに―――
問わずにはいられない
“どうして、私の事だけ忘れてしまったんですか”
少女は込み上げてくる涙に堪えられず彼女に抱き着き声を上げて泣いた。
初めて少女は彼女の前で泣いた。
そんな少女を彼女はあやすように背中を撫でる
「すいません…服、濡らしちゃいましたね……」
しばらくの間泣き続けた少女の声は少し掠れている
「いいのよ、これくらい。私、嬉しいの…乙姫ちゃんって絶対に弱みを見せてくれないから」
「そんなことはっ……」
「あるわ」
即座に言い返す織姫。こうして言い合う様は端から見ればなにもないただの仲の良い親子なのだろう