妖恋華
朝食を済まし、登校時刻になった二人はそれぞれの荷物を手に、玄関へと向かう。
普段は二人で戸締まりをし、誰に見送られることなく学校へ赴くのだが、玄関にはひとつの気配―――乙姫がいた。
“見送ろうと思って…”と笑う彼女に虎太郎だけでなく青までも目を丸くしている。
「どうしたの?」
「え?あ…うん…思ったより元気でびっくりした。」
声をかけられはっとしたように虎太郎は言葉をつむぐ。
帰れないことになったはずの乙姫は昨日に比べ何故か元気だ。
朝食時は自分達に気を使っていたんじゃないかと思ったが今の様子を見る限り、気を使っての作った笑顔ではない―――
いったい何があったんだろう
乙姫の様子を一番近くで見ていた虎太郎にもそれが分からなかった。
横で虎太郎の言葉を黙って聞いていた青も同じようなことを考えていたのか乙姫を見る。
二人の視線に気づいた乙姫は眉をわずかにさげて口を開いた。
「本当のこと言うとまだ理解してないことも沢山あるよ?不安だってなくなったわけじゃない……でもずっと落ち込んでるわけにはいかないでしょ?」
彼らにまっすぐに向けられる乙姫の瞳には昨日まで渦巻いていた陰りはなかった。