妖恋華
太陽が一番高く昇る時刻になり、ひとり自室に篭る乙姫は昼食について頭を悩ませ始めた。
昼食なら同じく部屋に居る華紅夜も必要だろう――。
正直、気は進まないが、華紅夜の部屋に足を運んだ。
襖の前で声をかけてみるが、返事が一向に返ってこない。
それに首を捻らせ“失礼します”と告げてから襖を引いた。
予想に反して部屋は空だった。
どこへいったのだろうか―――
もし、彼女が二階に来ていたらさっきまで二階に居た自分が気づかないはずがない。
台所などの一階の部屋を覗いても人の気配は感じられない。
ということは外か―――ここは神社だ。
手入れやら何やらがあるのかもしれない。
ならば、尚更自分が昼食を作る必要がある。
とりあえず、材料はあるのか確認しようと台所に足を運び、大きめの冷蔵庫を覗いてみた。
中にあったものに乙姫は軽く目を見開いた。
中にはがラップがかけられた料理が入っていた。
それだけならば、夕食の準備だろうと納得してしまっただろう―――しかし、乙姫を驚かせたのは皿の上にある“もの”だった。
“昼食。華紅夜様には必要ない。”
正方形の白いメモ用紙に達筆な字でそう書かれていた。
華紅夜宛でない。
もちろんお弁当がある彼らであるはずがない。
となれば、考えられるのは自分宛てだということだ。
この用件だけを書き記した紙からも、これを用意してくれたのがあの無表情な彼だということが分かる。
今朝のこともそうだが、彼の本質は、冷たいのではなく、単に不器用なだけで、優しいものなのかもしれない―――ふとそんなことを考えてしまった。
用意されていた昼食は昨日の夕食や朝食同様、とても美味しいものだった。
帰ってきたら、お礼を言おう――そして、何か手伝わせてもらおう―――
彼の優しさにやはり何か返さなくては、と思った乙姫は改めて決心を固めたのだった