妖恋華


おそるおそる、足を踏み込む。

昼とあっても、蔵の中は暗く、小窓から日が少し差し込むくらいだ。

古そうな書物が沢山、並べられているせいか、室内の中には古い紙特有の匂いが漂っている

もちろん、あるのは書物だけではない。

刀や鏡など“霊験灼かな”とつきそうなものばかりが並べられている

乙姫はその博物館のようなその光景を呆けながらしばらく見回していた



棚のひとつひとつを眺めてゆくと、他のものよりも年代を感じる書物を見つける

それを手に取ろうとしたのとほぼ同時に

バタンッ!!!――――という大きな音が蔵内に響き、室内は先程より静けさを増し、薄暗くなった

「……!」

勝手に蔵に入ったことに後ろめたさがあるため乙姫はその身体を強張らせた

緊張しながら後ろを顧みる

しかし、そこに人の影はなく閉じられた蔵の戸があるだけだった

きっと風で閉まったのだろう――と自分を納得させて視線を戻す



表紙には何も記されておらず、何についてのものなのかは皆無である

妙にそれが気になり、乙姫はその書物を開こうと表紙に触れた――――





「きゃああ!!!」


乙姫の書物を開きかけた手は止まった。


この閉鎖された室内にまでよく響いてきた何者かの叫び声に、自分の鼓動が速くなるのがわかる

尋常じゃない、危機感迫る――そんな叫びだった


乙姫は持っていた書物を元の位置に戻し、戸に手をかけた

冷たい風が乙姫の頬を撫で、すり抜けてゆく

気づけば外は日が傾き始めていた

時間の流れの速さに驚いたものの――それどころではなかった、とその足を森へ向けた




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