妖恋華

兆候



乙姫が去った台所は青と虎太郎の二人きりになった。そこへ帰ってきた華紅夜が現れた。

「乙姫はどうしたの?」

先程二階に上がっていった乙姫を思い浮かべながら彼らに問いかける

「時間も時間ですし、湯殿を勧めました」

台所にかけてある時計に視線を向けつつ青が華紅夜に答える。それに華紅夜は“そう”と一言だけ返し、踵を返した

華紅夜が自室に入ったのを確認し、虎太郎は口を開いた

「青ちゃん、わざとでしょ」

悪戯っ子のような虎太郎の笑みに青は本日何度目か分からないため息をついた

「乙姫ちゃんて華紅夜様のこと苦手にしてるから会わないようにしたんでしょ?」

「………何のことだ?」

その一瞬あいた間が肯定の意味を表していることに気づかないのか素知らぬ表情で水道の蛇口を捻った






そんな会話を聞いていたのは、着替えを手にした乙姫

浴室に向かう途中、たまたま聞こえた会話に乙姫は言葉を詰まらせる

彼が自分のために気を回してくれたことに心が暖かくなると同時に申し訳ない気持ちになった

申し訳ない気持ちは彼と祖母に対して

彼には気を使わせてしまったことが申し訳なく、祖母にはいくら理不尽なことを言われたとしても人を避けてしまうことは罪悪感を伴うものであり、申し訳なくなった


乙姫はため息を一つついて、その場をあとにした






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