妖恋華
虎太郎が溜めてくれたのか湯舟には湯が張ってあった
そのおかげか、浴室で凍えるということはなかった
乙姫は横に置いてあった桶で適当なお湯を身体にかけ、湯舟に浸かった
「ダメだなぁ……わたし」
ちゃんと切り替えられたと思ったんだけどなぁ
やっぱり華紅夜さんは苦手みたいだ
どうしても体が強張ってしまうんだ
自分の祖母にこんな感情を抱くだなんて思ってもみなかった
それは出会い方のせいか、はたまた彼女の雰囲気のせいか
「お母さんとの約束か……」
本当に私はここで一生過ごすことになるんだろうか――
「あっ…!」
そういえば、虎太郎君……いや、年上なのだから“虎太郎さん”になるのか?
それは置いておいて、彼の話が途中だったのだ
お風呂から上がったら聞かなくては
まだ十分に水分を含んだ髪をタオルで拭きながら廊下を歩く
冬の冷たい空間は風呂上がりのほてった身体にはちょうど良く、気持ちがいい
虎太郎に途中だった話を聞くために彼を探そうとしたとき、それは阻まれた
「乙姫、わたしの部屋に来てくれるかしら」