妖恋華
用具入れから取り出された竹箒を手に、二人は境内の掃除へやって来た
「いっつも一人で大変なんだよね〜。だから乙姫ちゃんが手伝ってくれると助かるよ〜」
乙姫の返答も待たずに連れて来たというのに、虎太郎はにこにことそんなことを言ってのける
「乙姫ちゃん?」
ただ佇む乙姫を不思議に思い、虎太郎は顔を覗き込む
「あの、例の話を……教えて下さい」
「………ああ、あの話ね。今は止めといたほうがいいかな」
合点がいったように虎太郎は一度目を閉じ、そして周りに視線を走らせた
「さっきはああ言ったけど――」
ああ言った――とはどのことだろうか
話が見えず、黙ったまま虎太郎を見返すと乙姫の視線に気づいた彼は、“昨日、待ってたのにって話”と微苦笑を浮かべて教えてくれた
「本当は安心したんだ。あんまり話したいとは思わない話だし……それに、華紅夜様の居るところでは話しにくいことなんだ」
「どうして?」
話したいとは思わない、というのは納得できる。
事実、自分も聞かないでいいようなことならあまり首を突っ込みたくない
しかし、華紅夜が居るところでは、というのは一体どういう意味なのだろうか
「村の機密って言うのかな…そういう裏事情は口外しちゃいけない決まりなんだ」
口元に指を当て、悪戯っ子のような笑みを浮かべる彼は、その決まりとやらを破ってまで自分に情報をくれるというのだ
「…いいの?」
「乙姫ちゃんは当事者なわけだし、なにより僕が教えてあげたいんだよね!」
優しい―――彼の存在は本当に心を暖かくしてくれる
「ありがとう…ございます」
目頭が熱くなるのを感じながら、一言お礼を告げると虎太郎は首を傾げた