妖恋華
「ねぇねぇ、時々敬語になるのってどうしてなの?」
「それは、虎太郎くん――じゃなくて虎太郎さん?が年上だと教えてもらって……すいません、つい癖でタメ口になってしまって…」
「むぅ……敬語のほうが嫌だ!“虎太郎くん”でいいし!!」
頬を膨らませる虎太郎
怒りの感情を表にだす際、頬を膨らませるのは、もはや彼の癖なのだろうな―――と思いつつ乙姫はその可愛さに頬を緩める
「じゃあ、虎太郎先輩にします」
本人の希望でも、やはり“くん”付けは躊躇われる
これから学校に通うというのだし、“先輩”というのが一番しっくりするだろう
「ん〜〜〜〜。まあ、許容範囲…かな」
しばらく唸ったあと、虎太郎は断念したようにため息をついた
虎太郎も彼女の真面目さは性質なのだろうと納得した
気の休まる雰囲気が今はなんだが懐かしく感じた
「それにしても寒いね」
「ホントなんでこんなに寒いんだよー」
虎太郎は竹箒を握り締めてぼやくが、冷たい風は容赦なく二人の体温を奪っていくことしか知らないように厳しく吹く
「雪の匂いがする…」
虎太郎が空を見上げて呟いた
確かに今日の空は雲が敷き詰めていて白んでいる
だが、“匂い”などあるだろうか――乙姫は虎太郎を見習うように空を見上げ、鼻を動かしてみた
しかし、乙姫には虎太郎の言う“匂い”はわからなかった
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朝食も済まし、身支度も整えた三人は学校へ向かう畦道を歩いていた
「お弁当ありがとう」
玄関で青の手によって渡されたお弁当はなんとも可愛らしいハンカチでつつまれていた
「別に…」
青は無愛想にそれだけ答える
初めに会ったときには恐怖を感じた態度も今はただ照れ隠しだとわかる
出会って数日と経たないうちに、それだけはわかるようになった
「卵焼きは乙姫ちゃんが作ったんだよね?」
「はい!あ、でも…ちょっと甘いかもです」
いつも卵焼きは甘めに作る癖があった。今日も砂糖を遠慮なく入れたような気がする