妖恋華
一番奥の席に近づけば近づくほどそこにいる人物の姿も徐々に明らかになっていく。
そして、鉄製の棚に遮られた視界に赤い髪の毛が飛び込んだ
乙姫は息を飲む。
忘れもしない―――その赤い髪を持つ男。
「あなた………」
乙姫の呟きに男は振り返る。
すると、眼鏡越しに目を細める
森で出会ったよりもずっと人間らしく良心的な眼差しでこちらを見ている
「初めまして。鬼瀬 紅夜(オニガセ コウヤ)です。」
キラキラと効果音がつきそうな笑顔でそう言うと手を差し出してきた。
おそらく、握手を求められているに違いない。
しかし、あんなことをされて警戒心も無しに手を差し出すわけにはいかない。
どうしようか――訴えかける眼差しで隣に居る青を見上げる
彼は動じることもなく乙姫を背に庇うように一歩足を踏み出した
「偽善面は止めろ。鬼瀬」
「嫌だなぁ。龍牙君。何のことだか分からないな」
青の威嚇にも嘘くさい笑顔で答える彼に青は一層不機嫌なオーラを醸し出す
普通の人間だったならば逃げたくなるような睨みを青は惜しみ無く紅夜へきかす中、いまだに青の袖を握る乙姫が口を開いた
「あなた一体何なんですか?いきなりあんなこと………それにあの角」
先日あったことを思い出しながら首筋へ手を当てる。
思い出すだけで恥ずかしさが込み上げてくるものの乙姫は負けじと紅夜を睨む