妖恋華
紅夜はふっと笑みを零すと眼鏡を外し、出会ったときと同じような口調で話しだす
「あれは刻印だ。」
「刻印……?」
“刻印”という単語に乙姫は素直に首を傾げる。
すると、紅夜は目を丸くさせた
「なんだ?お前巫女様に何も教えてないのか?」
乙姫にではなく青に向けて放たれた言葉
青は眉間にシワを寄せ視線を逸らした
そんな態度に紅夜は笑みを浮かべた
「本来、連れて来た花嫁候補に刻印なんて刻まないが、お前は美味かったからな。俺の餌という証だ。」
「美味っ―――私は食べ物じゃありません!」
「食い物さ。人間なんて俺達妖から見れば食い物―――特に霊力の高い人間は絶好の獲物だ」
舌なめずりする彼は、まるであの日の異様な雰囲気を纏い始めていた
それをいち早く察知した青は乙姫と紅夜の間に入る
「怖いねぇ。巫女様の忠犬くんは……」
おどけるように肩を竦め笑う彼につかみ掛かろうとする青だが、紅夜はそれを止めた――耳元で何かを呟いて
それが何なのか乙姫には聞き取ることはできなかったが、青が目を見張り動きが止まってしまったことから、きっと彼にとって衝撃を受けるような言葉だったに違いない
「さて、自己紹介もしたことだし……。神薙さん、君は俺のクラスになるから教室まで一緒に行こう」
まるで何もなかったように、紅夜は再び眼鏡をはめて笑った
乙姫は不安げに青を見遣るが、彼は目を逸らし踵を返しそのまま退室していってしまった
明らかにおかしな態度にその後を追おうとする乙姫。
しかし、紅夜は乙姫の腕を掴んで引き止める
「君は転校生なんだから先生と一緒に行動しなきゃだめですよ」
にっこり、そんな擬音が聞こえた気がした