妖恋華

内情


「いないなぁ…青」

“俺の名を呼ぶな”

彼の言葉が蘇る。

「名前、呼んじゃダメだったのかな…」

そういえば、紅夜が言っていた“赦す”とはどういう意味なのだろう

“許す”じゃなくて“赦す”?

これも虎太郎に聞いてみよう、と心に決め、辺りを見渡す。

そこで疑問符を浮かべる。
どうやら探し回るうちに渡り廊下の向こうの別棟に来ていたらしい。

そもそも学校の地理を知らない乙姫が的確な場所を目指せるはずがない。

乙姫は行き止まりにならないかぎり進み続け、ついに行き止まりに突き当たったのだ


戻ろうか、踵を返したときだった。懐かしい気配のようなものを前方から感じた

そのよくわからない感覚に導かれるように足は勝手にそちらに進む



足が止まったのは“生徒会室”だった

気配の持ち主はこの中らしい。間に扉一枚だけとなれば、何となく人がいるんだろうなということはわかる


「…………」

扉を見つめて、しばし。

どうやら自分は謎を解明しないと嫌な性質《タチ》らしい。

開けよう―――そう心に決め、手をかけようとした瞬間にそれは突然開いた




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