妖恋華
虎太郎は静かに語りだす。
乙姫が知らされることのなかった真実を――
《この村は常世と現世との均衡を保つための村。
そして、その均衡を保つ条件が荒神に花嫁を差し出すこと。
その花嫁は霊力の高い娘、その中でも容姿が優れている者が良いとされているんだ。
まあ、あくまで霊力最優先だけど…
“花嫁”が文字通りの意味じゃないことは気づいてる、かな。
華紅夜様は言わなかったけどね………
言い方は花嫁だなんて綺麗な言い方だけど、本当の意味は“生贄”。最低でしょ。
でも、これは随分前から続いていることで、現にそのおかげで僕らは今生きていられる
その役目を背負う一族―――それが“神薙”
“神薙”の姓は“巫”から来てるの。そのまんま“巫女”って意味。》
そこまで聞いて乙姫の中に疑問が生まれた。
花嫁が生贄だとすれば、なぜ“神薙”は存続しているのだろう。祖母も生きているし、母親も生きている
「それはね、神薙も巫女の一族とはいえ、長い年月の中で巫女の血が薄まり、代役を立て始めたから。今じゃ、花嫁は神薙に限らない。」
《華紅夜様の代には華紅夜様より強い霊力を持った別の花嫁が宛がわれ、君のお母さん――織姫さんは村を抜けたから、別の花嫁が宛がわれた。
それに、織姫さんは神薙の中でも特別霊力が弱かったって聞いたから、どちらにせよ別の花嫁が宛がわれたんじゃないかな?
織姫さんは有望な君のことも村から連れ出しちゃったから、村には神薙を継ぐものがいなくなっちゃって、村の重役たちはそれはそれは焦ったわけ。
それで、摎の頭首、摎 械仁が良い花嫁を連れてきた者の願いを叶える、だなんて言い出したの。
だから、次期頭首の花嫁探しが結構大袈裟になってる》
「それがあの連続失踪事件」
神隠しが連続で起きたのは、みんな願いを叶えてほしいからだったんだ