妖恋華

その後はまるで重い空気を壊すように虎太郎が“夕飯は何だろうね!”など別の話題を持ち出してくれたおかげか、気まずい雰囲気はなかった

2限目の終業の鐘が鳴り終わると虎太郎が立ち上がった

「そろそろ戻ろっか」

「はい。でも、転校初日でサボっちゃって気まずいです…」

余計に人の注目を集めてしまいそうで不安になる、というか既に憂鬱だ

落ち込んだようにため息を吐く乙姫に“気にしない気にしない。”と言いながら背をトントンと叩きたながら生徒会室を出てしっかり教室の鍵をかける



「じゃ、また放課後!一緒に帰ろうね!」

「あ、はい」

別棟まで来ていた乙姫を虎太郎は二階の渡り廊下まで送り、踵を返す。

それを見て乙姫も踵を返そうとしたとき、虎太郎が振り返って口を開いた

「乙姫ちゃん!…志貴野 真紀には気をつけて」

「え…?あっ―――」

それは誰?
聞こうとした瞬間予鈴が響く

「やばいっ!」

授業に遅れたりしたら、それこそ注目の的だ

虎太郎が送ってくれたおかげで、曲がり角を曲がればすぐに教室だ


虎太郎は走り去る乙姫の後ろ姿を見つめる

届かない一言を呟きながら――

「あの女は戒斗に執着してるから…」





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