魔王城にいらっしゃい!
「はっ、恐れ入ります魔王様!」
声の主は、扉を開けると、非常に緊張した様子で魔王執務室の中に入った。
脇腹には分厚い報告書を抱き抱えている。
魔王の部下らしきその男はつかつかと魔王ディスクの前まで歩み出ると、片膝を付いて抱えていた報告書を頭を垂れた体勢のまま提出した。
「勇者に関する報告書にございます」
「そんな事は分かってるよ。で、結果はどうだったの?」
「手下供の力不足により、恐れ多くも敗戦いたしました次第で‥」
「ふうーん。そっか、負けちゃったんだ?」
「‥ま、魔王様!」
男は切羽詰まった様子で唇を噛み締めていた。頭を下げている状態の為に、男が魔王の表情を伺う事は出来ない。耳に神経を集中させて男は魔王の様子を伺うしか無かった。
「心配しなくていいよ。こんなの僕の予想の範疇だからね」
「そっ、そうでございましたか魔王様」
いつまでも経っても顔を上げない男に、気の短い魔王は早くも痺れを切らした。
指をパチンと鳴らすと、執務室のドアを魔法で開かせる。
「アンタ、早く帰ってよし」
「はっ!申し訳ありません」
男は青い顔で飛ぶように魔王執務室を後にした。
誰も居なくなった部屋で魔王は男の置いて行った報告書を指先で摘み上げると、ニヤリと蠱惑的な表情をしてみせた。
「勇者が勝った?そんなの当然じゃないか。なんたって僕がアイツが勝てるギリギリの相手を選んでやったんだからね‥」
この位で負けてもらっちゃつまらないよ、『正義』の勇者クン。