魔王城にいらっしゃい!
ここは魔王城の大厨房。
台所は女の聖地‥という言葉がこの人間界があるそうだが、それはここ魔界でも同じだった。
この大厨房は男子禁制。
事前の許可無しには、いかなる立場の者も立入が禁止されている、神聖な場所なのだ。
女子ばかり、そして男子禁制。
この状況下ではとある事が必然的に起こるのだ。
それはつまり、女性陣のおしゃべり‥‥もとい噂話である。
そして本日もうら若き厨房の花たちの興味の先には、全ての女性の羨望をその小さな御身と高貴な魂に受け止められる、『魔王様』その人が居た。
「魔王さま、なんて可愛いらしいのかしら‥」
「時々こっそりと執務室を抜け出されては、3時のティータイムメニューをご注文なさるのよ」
「ああっ、どうしてあのように端正なお顔立ちなのかしら!将来が楽しみでなりませんわ‥」
誰よりも美しくて孤高で強く気高い御方‥。
魔王城の侍女たちの優しさと羨望の入り交じった視線を独り占めするこの城の主、魔王様は御年12才。
好きなものはココアクッキー。
闇色に似た漆黒の髪と、ルビーを思わせるやや切れ長の紅の瞳を妖艶に輝かせている。
「今から幾世紀も前、様々な陰謀によって奪われた我らが領地、下界を奪還する!」
魔王の就任パーティーでは世界中から名の知れた客たちを呼び集め、下界の奪還を高らかに宣言したのだった。